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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(オ)187号 判決 1970年6月04日

上告人

荒川農業協同組合

代理人

葛西千代治

被上告人

木村篤美

外一名

代理人

米田房雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人葛西千代治の上告理由第一点について。

上告組合は昭和三五年一二月初めから翌年一月初めにかけて、監督官庁の検査を受けたところ、現金の不当支出金一、六八三、九〇〇円、購買在庫品不足金三、五六二、四九九円、不健全債権金四、四三五、三八四円の存在を指摘され、上告組合に多額の業務および会計上の不正ないし不当処理の存することが判明したため、既に上告組合を退職していた被上告人成田と被上告人中村を除くその余の被上告人らおよび訴外中村忠雄の責任問題が論じられ、右の者らを懲戒処分に付すべきであるとの意見の表明もされたが、右の不正が具体的に上告組合の職員のうち何人のいかなる行為によりいかなる範囲で生じたかについての調査は十分でなかつたため、右の者らについて責任の追求をなしうるような状態にはなかつたが、前示のような多額の不正が存する以上、職員全体の責に帰せしむべきであるとして、昭和三六年三月一日の上告組合の役員会において右の者らを懲戒処分に付することを決議し、その旨の辞令は同日まで上告組合の組合長の職にあつた新外田辺徳治において同年二月二八日付をもつて作成交付するよう、上告組合は同訴外人に委任したのであるが、同訴外人は、被免職者やその家族から、懲戒免職処分が自分の意思によつてなされたものであると思われることを懸念し、かつ被免職者の将来を慮つて依願免職の形で右の者らを退職させることを考慮するに至り、同年三月八日から同月一五日頃までの間に右の者らに対し同年二月二八日付をもつて依願免職の辞令を交付し、上告組合の辞令簿にも「事務の都合により職を免ず」る旨の記載をなしたものであり、そして、訴外田辺徳治は右三月八日当時には既に上告組合の組合長の地位にはなかつたのであるが、同訴外人の組合長当時の不正事件についての右の者らに対し同年二月二八日付をもつて処分をなすべき旨を上告組合から委任されていたのであるから、同日付をもつて右の者らに対して上告組合の名において同訴外人のなした前記依願退職の処分は有効である旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第二点について。

前記の不正が具体的に上告組合の職員のうちの何人のいかなる行為によりいかなる範囲で生じたかを認めることができず、また、陳述の右の者らの共謀によつて生じたものであることをも認めることができない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯でき、この点につき、原審の釈明権不行使、審理不尽の違法は認められない。原判決にその他所論の違法はない。論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 岩田誠 大隅健一郎)

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